アメリカでの旧正月(春節)キャンペーン、注意点と事例
- Mitsu Itakura

- 12 分前
- 読了時間: 6分
日本はアジア圏にありながら全国的に旧正月(春節)を祝う風習がない珍しい国です。(かつて日本でも明治維新まで旧暦が使われ、お正月もこの時期に祝われていました。)なので現代の多くの日本人にとって旧正月(春節)は「知識としては知っているが、生活文化としては距離がある行事」となっています。しかし、アメリカ市場でブランドを展開する場合、この日本独自の感覚をそのまま持ち込むことは、戦略的な「ズレ」を産むことにつながり時に機会損失の要因となります。
今回は、アメリカにおいて日本ブランドが知っておくべき旧正月(春節)キャンペーンの注意点と成功事例を整理してお届けします。

まず大前提として、旧正月(春節)はアメリカ全体の祝日ではありません。主に祝うのは、中国系、台湾系、ベトナム系、韓国系といった特定のアジア系コミュニティです。
一般的なアメリカ人にとっては「中華街のイベント」という認識にとどまることも多く、万人向けの季節施策として捉えると、ブランドメッセージがターゲットに届かず霧散してしまうリスクがあります。
1. 爆発的に成長する「アジア系アメリカ人」市場
アメリカにおいて、アジア系コミュニティの存在感はかつてないほど高まっています。下記のデータがその勢いを証明しています。
全米のアジア系人口の推移:
2000年:約1,190万人
2023年:約2,480万人
成長率:+109%(Pew Research Center)
最新の推計では、アジア系人口は約2,580万人(全人口の約7.7%)に達しており、米国で最も成長が早い人種・民族グループとなっています。特にビジネス需要が高いのは、アジア系住民が集中する以下の5つの州です。
カリフォルニア、ニューヨーク、テキサス、ハワイ、ワシントン
これらのエリアでは、旧正月(春節)に関連した文化イベントや消費活動が極めて活発であり、無視できない商機が存在しています。
2. 日本ブランドが陥りがちな「3つの落とし穴」
「アジア全体のイベント」という誤解 アメリカにおいて旧正月(春節)は、事実上「Chinese New Year」として認識されています。日本ブランドが安易にこれを模倣すると、ブランドのルーツが混同され、アイデンティティを損なう恐れがあります。
ビジュアルの「借り物感」 店内を真っ赤に装飾したり、赤・金・漢字を多用し過ぎるデザインは、日本ブランドが大切にしてきたミニマリズムや余白の美学と衝突し、「無理をしている感」が出やすくなります。
ターゲットの不在 「誰に、何を祝うのか」が曖昧なキャンペーンは、祝う層には響かず、祝わない層には違和感を与えます。
3. 中華系顧客が多い場合の「戦略的振る舞い」
もし主要顧客に中華系(Chinese / Taiwanese)が多いのであれば、積極的にキャンペーンを実施すべきです。旧正月(春節)を祝うコミュニティにとってこの時期は年間最大級のギフティングシーズンであり、旧正月(春節)キャンペーンを行わないこと自体が大きな機会損失になり得ます。
ここで重要なのは、中華系文化の真似をするのではなく、「日本ブランドとして敬意を表す」という姿勢です。
"We are a Japanese brand, respectfully celebrating Lunar New Year with our community."
このように立場を明確にし、Good Fortune(幸運)やProsperity(繁栄)といった「普遍的な価値観」の表現をすることで、ブランドの格を維持したまま、共感や信頼を構築することが可能です。
4. 「やらない」という判断も、立派な戦略
旧正月(春節)キャンペーンの本質は、「なぜやるのか」をブランドの文脈で説明できるか、という点にあります。 あえて旧正月(春節)という言葉を使わず、「New Beginnings(新たな始まり)」や「A New Season」といった、より広い文脈で「春のギフト」を提案する方が、日本ブランドとして一貫性があり、洗練された印象を与える場合もあると思います。
【CASE STUDY】北米市場での日本ブランド成功事例
旧正月(春節)を「自分たちの文脈」に引き寄せて成功していると言える、日本ブランドの代表的な事例を紹介します。
▼事例1:UNIQLO(ユニクロ)
戦略:コミュニティへの敬意と「実用性」の融合
ユニクロは、旧正月(春節)を「家族が集まる時期の快適な服(LifeWear)」として定義しています。
施策: アジア系アーティストとコラボした限定コレクションを北米でも展開。また、店舗での「Red Envelope(お年玉袋)」の配布など、伝統を尊重しつつ、中身に「クーポン」を入れることで実益も提供しました。
成功のポイント: ブランドの根幹である「LifeWear」というコンセプトを崩さず、特定のコミュニティが大切にする行事に自然に寄り添った点。
▼事例2:MUJI(無印良品)
戦略:「福袋」文化の逆輸入とミニマリズム
無印良品は、日本の「福袋」のコンセプトを旧正月(春節)の文脈に合わせて展開しました。
施策: 1月1日のニューイヤーだけでなく、旧正月(春節)のタイミングでも限定の「福缶(Fortune Cans)」を販売。干支をからめて、赤を基調としつつも、デザインは極めてシンプルに。
成功のポイント: 「日本のお正月文化」を「旧正月(春節)」のタイミングにスライドさせることで、違和感なくギフト需要を取り込んだ点。
▼事例3:SK-II
戦略:プレミアムな「赤」とストーリーテリング
SK-IIは、ブランドカラーである「赤」を最大限に活用し、毎年旧正月(春節)限定ボトルを発売しています。
施策: 中華系コミュニティで好まれる「赤」を、単なるおめでたい色としてではなく、ブランドの「運命を変える力」の象徴として再解釈。北米でも高級デパートのカウンターで大々的に展開しました。
成功のポイント: 自社のブランド資産(カラー)と旧正月(春節)の象徴色が一致していた幸運を活かしつつ、グローバルな美の基準に昇華させた点。
事例まとめ
事例に共通しているのは、「行事に自分たちを合わせる」のではなく、「自分たちの強みを、その行事の文脈でどう語るか」を深く追求し徹底している点です。
「日本ブランドとして、どう祝うのが最も美しいか?」 この視点を持つことで、アメリカ市場でのブランド力はさらに強固なものになります。

結論:文化への「理解の深さ」がブランドの資産になる
旧正月(春節)のみならず、キャンペーン自体がそのブランドの文化に対する洞察力を表現する場になります。「流行っているから」「儲かりそう」ではなく、「自分たちは何者で、誰と関係を築きたいのか」を問い直す。そのプロセスこそが、北米市場での揺るぎないファンづくりに繋がります。
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