日本企業がいまアメリカを目指す理由
日本企業が海外進出を考えるとき、これまでは中国、タイ、ベトナム、シンガポールなど「まずアジア」が定番でした。距離が近く、人件費が比較的安い。人口が増え、経済成長を続ける国も多い。もちろん今でもアジアが重要な市場であることに変わりはありません。しかし最近、ロサンゼルスで日本企業のアメリカ進出を支援していて感じるのが「アメリカで売ってみたい」「まず市場を試してみたい」という相談の増加です。なぜ今、アメリカなのでしょうか。

日本はすでに「アメリカ最大の投資国」
まず数字を見ると、大きな流れがすでにできています。2025年末、日本の対米直接投資残高は約8,271億ドル。カナダ、ドイツ、英国などを上回り、日本は7年連続でアメリカ最大の投資国となっています。これは大企業だけの話ではありません。最近は食品、小売、ファッション、ライフスタイルなど、私たちの生活に近い分野でも日本企業のアメリカ進出が目立つようになっています。
その背景には、日本企業の海外進出に対する考え方が、「安い場所で作る」から「価値を高く評価してくれる場所で売る」へ変化していることもあるのではないでしょうか。
BEAMSに見る「小さく始める」アメリカ進出
最近の象徴的な事例のひとつがBEAMSです。
BEAMSは、2024年9月にロサンゼルスを拠点とする現地法人「BEAMS America, Inc.」を設立。その後、POP-UPやECなどを通じてアメリカ市場との接点を増やしてきました。
そして2026年8月、カリフォルニア・マリブに「BEAMS MALIBU」をオープン。興味深いのは、これが毎週金・土・日のみ営業する週末限定のコンセプトショップだということです。「Weekend by the Sea」をコンセプトに、アパレルや生活雑貨を販売しながら、マリブのライフスタイルに溶け込み、地域とのコミュニティづくりも目指しています。さらにBEAMSは2026年度中にロサンゼルスで常設店を開く計画を明らかにしており、BEAMS MALIBUをその布石と位置づけています。
つまり、
現地法人設立 → POP-UP店舗 → EC開設 → 週末限定店舗オープン → 常設店オープン
と、段階的に市場へ入っているわけです。
最初から大きな投資をするのではなく、顧客と接点を作り、反応を見ながら次のステップへ進む。これはこれからアメリカを目指す日本企業にとって、とても参考になる進出方法だと思います。
「パンとエスプレッソと」もアメリカへ
飲食分野でも動きがあります。東京発のベーカリーカフェ「パンとエスプレッソと」は2025年1月、カリフォルニア州レドンドビーチに米国1号店「BREAD, ESPRESSO &」をオープンしました。日本国内で37店舗を展開してきたブランドが、最初のアメリカ拠点として南カリフォルニアを選んだ事例です。
ファッションでも、飲食でも、日本で培ったブランドや商品をそのまま輸出するだけではなく、日本ならではの品質、デザイン、サービス、世界観そのものを価値としてアメリカへ持っていく動きが見られます。
「抹茶ブーム」が示す、日本の価値への可能性
その流れを最も分かりやすく表しているのが、世界的なMATCHAブームです。
2025年の日本茶輸出額は約720億円。前年から約98%増え、ほぼ倍増しました。その最大の輸出先がアメリカです。2025年の対米輸出額は約293億円で前年比82.6%増。日本茶輸出額全体の約41%をアメリカだけで占めています。
さらに、抹茶を含む粉末状茶だけを見ると、2025年の輸出額は603億円となり、日本茶輸出全体の84%を占めました。需要の急増によって価格上昇や原料不足まで起きています。
これは単なる「抹茶が流行っている」という話ではないと思います。アメリカの消費者が買っているのは、抹茶という商品だけではありません。
健康、品質、日本文化、ストーリー、ライフスタイル。
そうした背景を含めた「日本的な価値」にお金を払う市場が生まれている、と見ることもできます。そして可能性は、抹茶やほうじ茶などの日本茶だけではありません。
日本のお菓子、日本酒、食品、美容、工芸品、インテリア、ファッション、アウトドア用品、アニメ・キャラクター、さらにはBtoBの製造技術まで、日本では当たり前になっているものが、アメリカでは新しい価値として再評価されていると感じます。
なぜアメリカなのか。「人口」より「購買力」
もちろん、人口だけを見ればインドや東南アジアも魅力的です。実際、アジア市場も成長しています。しかしアメリカの魅力は、大きな購買力を持つ巨大市場が、一つの経済圏として存在していることです。
カリフォルニアで市場を作り、テキサス、ニューヨーク、フロリダへ展開する。州ごとの法律や税制などの違いはありますが、基本的には同じ通貨、同じ巨大な経済圏の中でスケールできます。
さらに長年にわたって日本企業が築いてきた「Made in Japan」「Japanese Quality」「Craftsmanship」への信頼もさらに高まりつつあります。
2025年のアメリカ経済は、高関税政策などの不透明感がありながらも実質GDPが2.1%成長し、個人消費やAI関連投資が経済を下支えしました。
つまり日本企業にとってアメリカは、単に人口が多い市場ではなく「良いものに対してお金を払う消費者が大量に存在する市場」なのです。
今は「進出してから売る」必要がない
以前、「アメリカ進出」と聞けば、現地法人を設立し、オフィスを借り、駐在員を送り、多額の投資をするイメージがありました。しかし今は違います。
Shopifyなどを利用してECを始める。Amazonでテスト販売する。展示会に出展する。現地小売店へ卸してみる。POP-UPを開催する。SNSで広告を出す。現地企業とコラボレーションする。BEAMSのように、小さな接点から始めて段階的に市場へ入っていくこともできます。
つまり今は、「進出してから売る」のではなく、「売れるか確かめながら進出する」ことができる。これが以前の海外進出との大きな違いです。
人口減少の日本から、その先へ
日本の人口減少と国内市場の縮小は、これからさらに進んでいきます。だからといって、すべての日本企業がいきなり海外へ出る必要はありません。
まず考えるべきなのは、大きな投資や拠点づくりではなく、自社の商品やサービスが他国やアメリカでどんな価値を持つのかを確かめることです。
誰に響くのか。どんな価値が評価されるのか。どの価格なら選ばれるのか。そして、どの地域から始めるのが最適なのか。まずは市場を知り、小さく試してみる。そこからアメリカ進出の可能性が見えてくるのではないでしょうか。
抹茶のように、日本では昔から当たり前に存在していたものが、海外で全く新しい価値として発見されることもあります。
日本企業の海外展開が、「安い場所で作る」から「価値を高く評価してくれる場所で売る」へと変わりつつある今、アメリカはその有力な選択肢のひとつです。
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